ベタ恋!〜恋の王道、ご教授願います〜
「飲み会、あんまり楽しめなかったんじゃないんですか? 染谷さんから聞きましたけど」

「そう見えるひとにはそう映っていたのかもしれないね」

桐島課長のそっけない態度に胸が痛む。

やっぱり桐島課長は帰りのことで怒っているんだろう。

「あ、あの、雨に濡れずに済んだんですが、どうやら相合傘、牧田先輩にみられたみたいですけど」

「そう」

そういって桐島課長は隣に置いてあったペットボトルのお茶に口をつけていた。

「で、牧田に言われてどんな気分だった」

「どんな気分だなんて」

まだ何もはじまっていない状況で噂にさせられたらまだ配属されて数ヶ月しか経っていない課長に迷惑がかかる。

染谷さんだったらきっと、他の子に自慢しちゃいますよ、と弾けてくるんだろう。

口にできない自分が悲しい。

桐島課長はペットボトルを持つと立ち上がり、階段を降りてわたしの目の前に近づいた。

「君が変に意識せずに普通に接してるだけならいいんじゃないか」

「変に意識だなんて、そんなこと」

桐島課長はじっとわたしを見下している。思わず目をそらしてしまった。

「もういいよ。終わったことなんだし」

「桐島課長……」

桐島課長は冷たくいうと、非常階段の扉をあけて中へ戻っていった。

生ぬるい風が身体に当たる。

完全に桐島課長を怒らせてしまったんだ。

余計に傷口を広げる結果になっちゃったのかな。

これから桐島課長とどう接していいんだろうか。
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