ベタ恋!〜恋の王道、ご教授願います〜
「やっぱり、ないか」

文庫小説コーナーの棚の前でぼそっと独り言をつぶやいたら、近くで本を探していた若い男性がこちらを睨んできたので、あわてて隣の本棚のコーナーへと移った。

休みの日には本屋へ必ずいく習慣がついていた。

ずっと探している本をみつけるため。

恋をしてみたいと思ったのは、小学生時代から中学生時代にかけて読んだ小説だ。

少女漫画ももちろん好きだったけれど、漫画雑誌を買いにいった本屋で目にした文庫本の小説コーナーに漫画のような女の子と男の子の絵が描かれた表紙を見つけたのがきっかけだ。

中をペラペラとめくると文章とともに挿絵が何点かあってその絵もとてもかわいくて思わず買ってしまった。

ジャンルが少女小説で、中学1年生の平凡な女の子が同じクラスのかっこよくて頭もよくて性格もいいという典型的なキラキラした男子を好きになってやがて恋におちるといった話だった。

よくあるベタな展開な恋愛模様を描いたものであるがシンプルだからこそそういう恋に憧れた。

クラスメートにも読ませたけれど、こんなのありえるわけがないと笑い飛ばして男性アイドルだったり、男性ボーカルユニットの話題で花を咲かせていた。

たしか名前が『二階堂重彦』だったと思う。

中学の終わりに友人の一人に貸したところ、結局なくしたのか本を返してもらえないまま卒業し、別の県の高校へといってしまってからは音信不通となってしまった。

男性なのに女性目線でしっかり書き上げられた小説は面白かったのに、いくら本屋をめぐってもみつからなかった。

調べてみると彼の書いた作品は絶版になっていた。

あのきゅんとするような恋がしてみたい。

それに巻末に書かれてあった続編の『苦い恋の始め方』を読んでみたかった。
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