ベタ恋！〜恋の王道、ご教授願います〜
「……ごめんなさい。星野センパイ」

目に少しだけ涙をうるませながら染谷さんは言った。

そういう顔をするから男はだまされるんだよ、とこの場で言いたかったのだけれど、これ以上染谷さんを責めさせてもな、と思い、うん、と軽く頷いた。

「期日までになんとかなるよ。やろう」

そういえば席に戻ったときにはいなかった桐島課長が後ろから近づいていた。

「俺のチェックミスだ。俺にも責任がある。大丈夫、時間の許す限り俺もやるから」

落ち着きを払いつつ、周囲に笑顔をふりまきながらわたしたちの顔をみて、それから桐島課長は自分の席に戻っていった。

「桐島課長もそうおっしゃっているんですから、ね。牧田先輩、過去にもあったじゃないですか。わたしも間違えて上書き保存しちゃったことが」

そうわたしが言うと、牧田先輩はわかってくれたのか、

「……そうだったわね」

と、弱々しい声で返した。

「手分けしてやりましょうよ。最終的に文句いってくるのは生産機械設備課なんですから」

「わかったわよ……」

そういうと、牧田先輩は机にあったプリントアウトされた原稿をかき集め、自分の席へと逃げるようにいった。

「星野センパイ、ありがとうございました」

染谷さんはわたしに聞こえるぐらいの小さな声で話すと、気持ちを切り替えたのか姿勢を正してパソコン画面と原稿を見比べていた。

しかしまだ期日までの猶予はあるのに、どうしてそんなに牧田先輩は目くじらを立てていたんだろうか。
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