ベタ恋!〜恋の王道、ご教授願います〜
あんなににこやかな牧田先輩をみるのは初めてだ。

桐島課長も嬉しそうに笑っている。

わたしのなかで少しずつくすぶる何かを感じていた。

何事もなかったように総務課の部屋に戻り、自分の席に座る。

ちらりと牧田先輩をみると、いつものまじめな牧田先輩であるのに、別人にみえて不思議な気持ちになった。

行動予定表には桐島課長の予定が書いていなかった。

今日は1日総務課にいる。

お昼になり、みなお昼をとりに席を立つ。

牧田先輩が席を立つと駆け出し、外へ出ようとする桐島課長の隣へ近づいていった。

一体何を話しているんだろう。

味気ない社員食堂のご飯でなんとか腹を満たしたけれど、牧田先輩と桐島課長のことで頭がいっぱいになった。

食器を返却口へと戻し、期待と不安のなか、いつもの通りに非常階段の扉を開けた。

「お疲れさま」

「……お疲れさまです」

いつものように階段の中程に座り、のんびりとお茶を飲んでいる。

日差しはあるものの、非常階段は北側に設置されているため、日陰なので乾いた風が流れていた。

「もうここへは来ないかと思ったんじゃないかな」

「……桐島課長のことですから、わたしのほうからいうことはできません」

ああ、何いっちゃってるんだろう、わたし。

本当はすごく嬉しくて仕方がないのに。

桐島課長はわたしの顔をみて、ふうと軽くため息をもらした。

「場の空気が悪くなるぐらいなら、もうここにこないほうがいいかな」

そういって、ペットボトルを持って立ち上がり、ゆっくりとわたしへと近づいてきた。

桐島課長のかなしそうな表情は飲み会の帰りのとき以来だ。
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