ベタ恋!〜恋の王道、ご教授願います〜
やっぱり言わなきゃ、自分の気持ちを。

桐島課長も顔を歪ませるかもしれないけど。

もし何かあっても二階堂さんがついているからダメもとで話してみよう。

「……そんなこと、言わないでくださいよ。いるだけで安心するっていうか」

体の奥底のあらゆる力をふりしぼった。

声が震えてしまったのが残念だけど。

「それだけ?」

桐島課長は目を丸くする。

よかった。顔を歪ませていない。

「また本の話、しましょう」

「そうだね。そうだった。この間はきつく言ってしまってごめん。嫌われたかと思ったよ」

そういって安心したのか桐島課長はにこやかな笑顔をくれた。

嫌われていただなんて。

わたしのほうが桐島課長に嫌われていたとばかり思っていた。

「星野くんには助けられてばかりだな」

「え」

「こっちの話」

そういって笑顔をたやさぬまま桐島課長は非常階段の扉を開けてなかへと入っていった。

一気に力が抜けた。

まだまだ好きだっていう言葉は言えないけれど、正直に自分の気持ちを伝えることができた。

これは一歩前進したのかな。

あとで二階堂さんに報告しなくちゃ。

乾いた風を全身に浴びつつ、どこかの木々にとまるセミの鳴き声を聞きながら青空を眺めた。
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