サヨナラケイジ
涙があふれてくるから。

もう、会えないと思うと悲しくて悲しくて。

おさえていた感情が、一気にあふれてくる。

目からこぼれそうになる涙をこらえて、うつむく。


「あはは。こういうの弱いんだよね。なに泣いてるんだろ」


「琴葉」


「もう行っていいよ。さよなら」


洗面所に逃げようと体の向きを変えた私は、次の瞬間後ろから抱きしめられていた。



結城が強く私を抱きしめている。



息が、止まる。



「良かった・・・・・・」


安堵のため息のような声が耳元で聞こえた。


「結城・・・・・・さん?」


「琴葉が無事で良かった。本当に良かった」


さらに強く抱きしめられる。

その腕に私も両手を重ねた。


息づかいが重なるようで、暖かい涙がスーツの袖を濃くしている。
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