サヨナラケイジ
「琴葉、捜査だ。恋人のフリをしろよ」


耳元で結城がささやいた。


そのまま、また肩を抱かれる。

なにか言ってやろうとしたとたん、大音量のBGMが一気押し寄せてきた。

重い扉が開いたのだ。

中は、薄暗く、いくつものLEDが音に合わせて激しく動いていた。

周りにはお酒らしきものを飲んでいる人がいたり、中央のフロアみたいな場所では音に合わせて身体をゆらしている姿が見える。


・・・ここって、クラブ?


ウワサには聞いていたが、はじめての経験だった。

先輩たちは、寮を抜け出してたまに行っているらしいけれど、その武勇伝を聞いたことしかない。

とにかく音の洪水がすごい。

うわんうわんと頭でこだまして、どんな曲なのかもわからない。


「キョロキョロすんな」


結城の声が聞こえて、さらに強く肩を抱かれて歩く。

もう、友季子の姿は見えなかった。

重低音の音楽は、地面を揺らしているかのように響き、そのたびに一瞬明るい光が全体を照らす。

20名くらい?
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