イジワル上司に焦らされてます
 


相変わらず、早鐘を打つように高鳴る心臓は正直で、私は金縛りにあったように不破さんから目を逸らせずにいた。



「おい、聞こえてんのか?」



確かに、あのエレベーター事件の時に、私のこと、わかるって言われたけど。


それは私もその通りだと思っていたし、私だって不破さんのことをわかっているつもりだった。


だけどそれは、こういうことじゃない。


私はあくまで、不破さんとは上司と部下という関係の元、相手のことがわかっているつもりでいたのだ。



「ふ、不破さんは、わからないと思いますけど、私って救えないくらいに料理下手です!」

「は?」

「料理のセンスゼロだし、お鍋とか、すぐ焦がしちゃいますし……!」



思わず声を張り上げれば、不破さんがあからさまに眉根を寄せた。


でも、どうにかして否定しないと、不破さんと私がまるで、ただの上司と部下ではないと言われているみたいで……


その上、今の言い方だと、不破さんが私のことを将来は面倒見る、みたいに聞こえたし。



「いや、わかるだろ。だってお前、確か毎週、料理上手の姉貴に手料理届けてもらってるって言ってたし。料理得意なら、わざわざそんなことしてもらう必要ないしな」

「う……っ」

「まぁ、いいんじゃん?俺は、そこそこ料理できるし」



だけど、どんなに抵抗しようとしても、不破さんの方が一枚上手で。

何を言っても、結局、自分が墓穴を掘るばかりだった。


 
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