イジワル上司に焦らされてます
と。そこまで言えば不破さんは、
「なんだよそれ、お前以外の女は怖ぇな」
そう零しながら……破顔した。
「……っ、」
その笑顔が、あまりにも無防備で。
こんな風に笑う不破さんは滅多に見れないから、思わず食い入るように見つめてしまった。
さっきから、胸が痛いくらいに高鳴って仕方ない。
本当に、なんなの、これ……?
一体、何が起きてるの?
「っていうか、別に、持ち腐ってもいいだろ」
「……え?」
「だって、お前の見た目も、お前のもんなんだし。お前がどうしようとお前の自由じゃん」
「……っ」
けれど肝心の不破さんは、そんな私の心情は知る由もなく……
当然のことのようにそう言うと、デスクの上に置いてあった煙草をスーツのジャケットの胸ポケットへとしまった。
そして、もう一つ。同じく自身のデスクに置いてあった黒皮のキーケースを手に持つと、唐突に私を見て、口角を上げる。
「それ、持ってろ」
「…………わっ!?」
言葉と同時─── キーケースが、私に向かって放り投げられた。
綺麗な放物線を描いて飛んできたそれを、危なげなくキャッチすれば、キーケースの中で鍵同士が喧嘩してぶつかる音がする。