イジワル上司に焦らされてます
「どうしても納得いかないなら、もう一つ、理由をつけてやろうか」
そんな私の心の内を見透かしたのか、不破さんは言う。
「へ……?」
「さっきの " ご褒美 " だけじゃ、足りないだろうし。だから、追加のご褒美で送ってってやるよ」
「ご褒美?」
「俺の帰りを良い子に待ってたらしい、ご褒美。ご希望なら……車の中で、もう一回してやってもいいけど?」
「……っ!?」
「一回で終わるかは、わからないけどな」
言ってから、喉を鳴らして笑った不破さんを前に……彼が、キスのことを言っているのだと、私は遅れて気が付いた。
再び身体は火を吹いたように熱を持ち、耳まで赤く染まっていくのがわかる。
「わかったら、無駄な抵抗しないで大人しく車で待ってろ」
言いながら、再び踵を返した不破さんは、茹でダコであろう私を残して颯爽とオフィスを出て行った。
残された私は、不破さんに渡されたキーケースを握り締めたまま……しばらく、その場から動くことができなくて。
本当に……不破さん、何か変なものでも食べたんじゃないの……?
見慣れた時計の針が日付の変わる夜の0時を差しても、私の頭の中はまるで夢の世界にいるようだった。