イジワル上司に焦らされてます
 

 


「煙草、車の中では吸わないんですか?」



赤信号で止まった車。

運転席側の窓枠に肘を乗せ、気怠げに前方を見ていた不破さんに声を掛ければ、視線だけを寄越された。

切れ長の、アーモンドアイ。流し目が色っぽくて、それだけで心臓が大袈裟に高鳴ってしまう。



「臭いが付いたら嫌なんだよ」

「臭い? ……ああ」



……意外だ。

不破さんって、車に煙草の臭いが付くのを嫌うタイプだったんだ。

どちらかと言えば、そんなの気にしませんって感じなのに。

寧ろ、運転中こそ自分のテリトリー内で気兼ねなく煙草を吸ってるイメージだった。オフィスだと、廊下を出た先にある喫煙所でしか吸えないし。

そんなことを思いながら、ついジッと綺麗な顔を眺めれば、不破さんが突然訝しげに眉を顰める。



「……お前、なんか勘違いしてるだろ」

「え?」

「臭いが付くって、車にじゃないぞ」

「え……」

「お前の服とか髪に付くって話だ」



そう言うと、呆れたように息を吐いた不破さん。

同時に、私は自分の浅はかさを突きつけられて、顔が一気に熱を持った。

 
< 128 / 259 >

この作品をシェア

pagetop