イジワル上司に焦らされてます
「煙草、車の中では吸わないんですか?」
赤信号で止まった車。
運転席側の窓枠に肘を乗せ、気怠げに前方を見ていた不破さんに声を掛ければ、視線だけを寄越された。
切れ長の、アーモンドアイ。流し目が色っぽくて、それだけで心臓が大袈裟に高鳴ってしまう。
「臭いが付いたら嫌なんだよ」
「臭い? ……ああ」
……意外だ。
不破さんって、車に煙草の臭いが付くのを嫌うタイプだったんだ。
どちらかと言えば、そんなの気にしませんって感じなのに。
寧ろ、運転中こそ自分のテリトリー内で気兼ねなく煙草を吸ってるイメージだった。オフィスだと、廊下を出た先にある喫煙所でしか吸えないし。
そんなことを思いながら、ついジッと綺麗な顔を眺めれば、不破さんが突然訝しげに眉を顰める。
「……お前、なんか勘違いしてるだろ」
「え?」
「臭いが付くって、車にじゃないぞ」
「え……」
「お前の服とか髪に付くって話だ」
そう言うと、呆れたように息を吐いた不破さん。
同時に、私は自分の浅はかさを突きつけられて、顔が一気に熱を持った。