イジワル上司に焦らされてます
けれど私の返答に、不破さんは煙草を取り出すこともせず、予想の遥か斜め上を行く言葉を口にした。
直後、赤から青に変わった信号。
ギアに手を乗せ、アクセルを踏み込む前に、再び私に視線だけを寄越した不破さんは意味あり気に口角を上げる。
「俺、お前の匂い、好きだし」
「……っ、」
「まぁ、抱き締めた時に、お前から俺の匂いがするのも悪くないけどな」
その言葉に今度こそボッ!と効果音でも付きそうなくらいに真っ赤になって固まれば、意地悪に目を細めた不破さんが小さく喉を鳴らして笑った。
同時に、走り出した車。
私は予測不能な運転手の横顔を見つめたまま、次の信号に停まるまで身体を動かすことができなかった。