イジワル上司に焦らされてます
それが、どうしてなのか、理由なんて考えたこともなかった。
私の中ではあまりに当たり前で、今日まで気付かなかったんだ。
7年、一緒にいたら、匂いくらい覚えてしまって当然だろう。
最早、一種の職業病のようなものであるとさえ思うほどに。
「まぁ、今日のお前は酒臭いし、マジで酔っ払いだけどな」
「す、すみません……」
青信号。見慣れたオフィス街を抜け、海沿いの道をひた走る車。
落ち着かない思いで運転席を盗み見れば、ハンドルを握る上司は何故だか酷く上機嫌だった。
ラジオから流れている洋楽のBGMに併せて、指先がリズムを刻んでいる。
オフィスでもキーボードを叩く音が軽い時は決まって不破さんの機嫌が良い時で、その機嫌の具合は大抵仕事の調子と連動していた。
ということは、出張先で余程良い収穫でもあったのかな? 打ち合わせついでに、新たな仕事でも貰ってきた?
それとも……しつこいようだけど、やっぱり何か悪いものでも食べたとか?