イジワル上司に焦らされてます
「あ、あの、」
「そういえば、あっちで会った宇佐美さんが、お前に随分感謝してたぞ」
「……え?」
「前回、お前がデザインした企画物のミニパンフレット、ターゲットの女性客から可愛くて読みやすいってかなり評判らしい。次を期待する声も大きいから、次回も是非、お前にやってほしいって」
けれど、「出張先で、何かいいことでもあったんですか?」と尋ねようと開いた唇は、唐突な報告によって止められてしまった。
「お前が認められるのは俺も嬉しいし、本当はすぐにでも、お前に伝えてやりたかったんだけど」
「……っ、」
「まぁ……実際会ってみたら、珍しくお前は酔っ払っててタイミング逃して、伝えるのが今になったけどな」
言いながら、喉を鳴らして笑った不破さんを、思わず瞬きをすることも忘れて見つめた。
─── 不破さんの機嫌が良い理由は、私だったんだ。
「宇佐美さんが、今度こっち来る機会があったら、是非、お前に挨拶させてほしいって」
ドキドキと高鳴る鼓動。それを誤魔化すように、たった今、不破さんに言われたことを頭の中に並べた。
" 宇佐美さん " は以前、不破さんが伝言ゲームのようにポストイットにダラケたウサギの絵を描いて電話のあったことを教えてくれた、例の宇佐美さんだ。
今回、不破さんが出張先だった神戸で会っていたのは、その宇佐美さんが勤める会社の設計部の人で、今言ってくれた案件とは別の件での仕事のためだった。
宇佐美さんの勤めている会社は、サロン関係のお店を手広く経営する関西では名の知れた大手企業。
以前、宇佐美さんが関東支社にいた頃に別のクライアントさんを通して不破さんが捕まえた、大切なクライアント様の一つだ。