イジワル上司に焦らされてます
* * *
「おー、不破、お疲れ。出張、どうだった?」
オフィスに着くなり声を掛けてきたのは、既に出勤していたカニさんだった。
不自然に見えないように不破さんの後ろから「おはようございます」と、顔を出せば、「おー、日下部ちゃんも一緒か。おはよう」と、いつも通りの返事が返ってくる。
とりあえず、第一関門はクリアだ。
assortのみんなに不破さんとの関係を知られたら、からかわれるのは目に見えてるし、気付かれないままならその方が良い。
できる限り平常心を装って自分の分と一緒に不破さんの分のタイムカードも押すと、私は一人、デスクに向かった。
「神戸の案件は、スムーズに纏まりそうですよ。サイン取り付けの位置確認のために設計の人たちと現場も見に行ったけど、問題なさそうだし」
そんな私のあとを追うように自身のデスクに着いた不破さんも、カニさんに返事をしながらPCを立ち上げる。
「まぁ、あの辺りは新開発で新しい店も増えてるんで。実際見るとまた違う印象だったから、見てきて良かったなと思います」
「神戸の街も大分変わったよなぁ。俺なんてもう何年も行ってないけど、洒落た店が多いらしいって嫁が言ってたよ」
「一応、資料として行った先々で写真撮ってきたんで街の雰囲気は見れますよ。サーバーにアップしときます」
そう言うと、不破さんは鞄の中からデジカメを取り出し、立ち上がったばかりのPCへと繋いだ。
その一連の動作を横目で捉えながら、私もデスクに腰を下ろして自分のPCを立ち上げた。