イジワル上司に焦らされてます
その言葉に、思わずピクリと反応してから顔を上げれば、ちょうどデスクに鞄を置いたサルさんと目が合った。
そのまま数秒見つめ合うと、不意に何かに気が付いたらしいサルさんが優しく目を細める。
「ああ、そっか。確か、日下部さんってチーズケーキ、好きだよね」
思わず、ボッ!と顔が火を吹いたように熱くなった。
サルさんの言うとおり、私はチーズケーキに目がない。
カフェに行っても基本的に頼むのはチーズケーキだし、疲れた時に食べるご褒美もチーズケーキ。
だから、ついついチーズケーキという言葉に反応してしまったけれど、私までお土産にガッツイてるみたいで恥ずかしい。
それに、まさかとは思うけど……まさか、ねぇ?
「不破! お前、日下部ちゃんの趣向に合わせて土産決めたろ!」
「そうですけど、何か」
「な……っ、」
サラリと、なんのこともないように言い切る不破さんを前に、思わず大袈裟に驚いてしまった。
「お前、普通は上司の俺の趣向に合わせるべきでなぁ……」
「まぁまぁ、カニさんはなんでも好きだから良いじゃないですか。不破くん、ありがとね。チーズケーキは、3時休憩にでもみんなで食べよう」
そう言うと、無精なカニさんの手からチーズケーキの入った紙袋を奪って冷蔵庫のある休憩スペースへと消えていくサルさん。
そのサルさんと一瞬だけ目が合ったような気がするけど、今はそれどころではなかった。
チラリ、と、隣のデスクを覗き見る。
だけど、そんな私の視線にも気付いているであろう不破さんは、もうスッカリ仕事モードで頬杖をつくように口元を片手で押さえていて、私を見ようともしなかった。