イジワル上司に焦らされてます
「ちなみに、カタカナ表記の " カフェ・プラス " だけじゃなく、ローマ字表記も全て押さえられてる」
「そんな……」
「お前、それでもまだ " 気にする必要はない " なんて、バカなこと言わないよな?」
「す、すみません、私……商標登録とか、まるで頭になくて、気付きませんでした……」
唇から零れた言葉は、自分でもハッキリとわかるくらいに震えていた。
" 青天の霹靂 " とは、まさにこのことだろう。
先週までは、何もかもが順調に進んでいると思っていたし、寧ろ、たった今不破さんに指摘されるまで、何もかもが順調だと思っていた。
それが今、一瞬でひっくり返ってしまったのだ。
思わぬところからされた指摘に、こめかみを殴られたような衝撃が身体の中を駆け巡って、心臓がバクバクとうるさい。
「……気付かなかった、で、済まされる話じゃないだろう」
「……っ、」
「もし、今の段階で気付かなくてオープンまで進んでたら、取り返しのつかないことになってたかもしれないんだぞ。それを呑気に、" 気にする必要はない " だとか、 " 気づきませんでした " なんて無責任にも程がある」
揺れる瞳を上げて不破さんを見つめれば、私を真っ直ぐに射抜く厳しい視線とぶつかった。
朝、私を見つめていた優しい眼差しとは、まるで違う。失望と、怒りを滲ませた目だ。
そのまま不破さんの目を見ていることは耐えられず、思わず目を逸らせば鼻の奥がツンと痛む。
自分の甘えを真っ向から指摘され、なんの反論も返すことができない。