イジワル上司に焦らされてます
「ネームとロゴ案を提出する前に、どうしてもっとよく調べなかったんだ。時間は十分あっただろ?」
「そ、それは……少しでもスケジュールを前倒しで進めるように、と。そうすれば、双方にも余裕ができるんじゃないかと思って……」
「スケジュールを前倒しで進めることよりも、丁寧に仕事をすることのほうが、よっぽど大事だろう。それでミスをしていたら、寧ろマイナスでしかない」
「……っ、」
「不破くん……ごめん、日下部さんだけじゃない。サイトを作ってた俺も気付かないことだった。だから……」
「サルさんは黙っててください。この案件のディレクションをしているのは、日下部です」
私たちのやり取りを見兼ねたサルさんがフォローに入ってくれたけれど、不破さんは厳しい口調でそれさえも一蹴する。
「お前の、ほんの少しの気の緩みでどれだけの人に迷惑が掛かるか、わかってんのか」
戒めるような、突き放すような物言いに、今度こそ喉の奥が熱くなった。
こんな風に叱責されるのは、いつぶりだろう。
ここ最近は、今のように強く注意をされることもなかったし、指導されることもなかった。
それだけ自分は以前よりも成長しているのだと思っていたし、不破さんから、自分は少なからず信頼されているのだとも思っていた。
今回のカフェ案件だって、私は何もかもが順調に進んでいると思っていたし、不破さんから指摘を貰うまでは全てが順調だった。
前回の辰野さんとの打ち合わせでネームとロゴ案を提出した時も─── ああ、そうだ。
私は、" このままでいけば意外にもすんなりとこの仕事は終わりそうだ " なんて。
まだ、何もかも完成には程遠いというのに、そんなことを偉そうに思っていた。
「今、お前が並べた言葉は全て言い訳だ。言い訳を並べて出来上がったものを、お前はクライアントに誠心誠意込めて作ったものだと言って渡せるのか」
PCのファンの音だけが響くオフィス内、突然降り出した雨に、指先が冷えて震えた。
結局は、バカな自分の驕りが招いたミスだった。
不破さんの言う通り、これは自分の気の緩みが招いた失態だ。
そして……今、何より不破さんが怒っているのは、そんな自分を私自身が正当化しようとしたこと。
私は今、間違いなく不破さんの信頼を裏切った。