イジワル上司に焦らされてます
どれくらい、沈黙が続いていたかはわからない。
遠くでクラクションの鳴る音が聞こえて、ガタガタと風が窓を叩く音も耳を掠めた。
「─── " 私も、人の笑顔を作る仕事がしたいんです " 」
「え……」
「日下部さんが、覚えているかはわかりませんが……以前、日下部さんに言われた言葉です」
ゆっくりと、確かめるように紡がれた、思いもよらないその言葉に、思わず目を丸くする。
「あの時は、そう言った日下部さんがあまりに綺麗で、それに言葉を返すことができませんでしたけど……」
そこまで言うと、辰野さんは困ったように笑って再びテーブルの上のコーヒーへと手を伸ばした。
まるで自分を落ち着かせるかのようにカップに口をつけコーヒーを呷ると、真っ直ぐな目で私を射抜く。
「あれは、間違いなく日下部さんの本心から出た言葉だと……僕は今でも信じています」
その言葉を聞いた瞬間、喉の奥が熱くなった。
鼻がツンと痛んで、慌てて辰野さんから目を逸らすとテーブルの上のコーヒーが、ゆらゆらと滲んで揺れる。