イジワル上司に焦らされてます
「……そうですか。ありがとうございます。もしも、また何か日下部がやらかしたら、その時は遠慮なく、僕にご連絡ください」
「ああ、大丈夫ですよ。日下部さんなら何があっても最大限尽力してくれると思ってますし、たった今しがたの打ち合わせで、今回は不破さんの出番はないかなと僕も思ったところなので」
不破さんの言葉に辰野さんがそう返したところで、何故か不破さんが一瞬、訝しげに目を細めた。
それに気付いたらしい辰野さんは、やっぱり柔らかな笑みを浮かべたまま、今度は私に向き直る。
「それじゃあ、日下部さん。ご連絡、お待ちしています。あと、今回の仕事が一段落したら、改めて食事に誘わせてくださいね。その時は、僕から一つ、面白い話をさせてください」
「え……」
「ほら、約束したじゃないですか。ああ、それと、僕の社用の携帯電話も持っててくれてありがとうございました。今日は日下部さんと二人きりの時に、例え仕事でも邪魔されたくないなぁと思ってたんで」
言いながら、辰野さんが取り出したのはカフェに入るより随分前に、私が彼へと返した彼の社用の携帯電話だ。
だけど、たった今の彼の言い方だと、打ち合わせの最中はずっと私がその携帯電話を持っていたみたいに聞こえる。
それに、食事の件も……もしかして、それが辰野さんの言う " 公私混同 " なのだろうか。