イジワル上司に焦らされてます
「じゃあ、また。色々、楽しみにしています」
「あ、あの! 辰野さん、私……」
帰ろうとする辰野さんの背中に慌てて声を掛けたのだけれど、次の瞬間、何故か隣に立つ不破さんの肩に手を置いた彼に、思わず言葉を止められてしまう。
「……不破さんも、あんまり日下部さんのことをイジメないであげてくださいね?」
「…………」
「まぁ、僕的には彼女が今よりもっと僕を頼ってくれるようになれば、嬉しい限りですけど」
挙げ句の果てには去り際にそんなことを言い残し、留めとばかりに甘い笑みを向けると私と不破さんを置いて、颯爽とその場を後にした。
その後ろ姿を見つめながら、ただ固まってしまった。
訪れた沈黙には気まずさしかなくて、何を言ったら良いのかもわからない。
「…………ふざけんな」
「……っ!」
だけど、ぽつり、と。張り詰めた空気を破ったのは、唸るように吐き出された不破さんの言葉だった。
そのまま踵を返すと、当たり前のようにエレベーターホールに向かう彼の背中を慌てて追いかける。
「あ、あの! 不破さん、すみませんでした!」
「…………」
「それと、今、辰野さんが言ったことは色々と説明不足で……っ」
けれど、追い付いたところでタイミング良くやってきたエレベーター。
それに乗り込む不破さんに続いて中に入ると、当然の如く扉は閉まった。
重苦しい空気。私の方を見ようともしない彼に、喉の奥まで出掛かっていた言葉が止まってしまう。