イジワル上司に焦らされてます
「良かったな、誰もこのビルに用事が無くて」
「……最低、です」
赤くなった顔で抗議とも言えない抗議を送る私に、さっきまでの余裕の無さを消した彼が余裕たっぷりに笑う。
その上、ちゃっかりとエレベーターのボタンを押す余力まであるのだから腹が立って仕方ない。
ようやく動き出すことを許されたエレベーターは、鈍い音を立て、目的の階へと着実に向かっていった。
辰野さんに会いに行く前は、やけに寂しく聞こえた機械音ですら、今は胸を高鳴らせる要因になってしまうのだから、どうしようもない。
「蘭、お前、ちょっと間を空けてから戻れよ。オフィスの連中が今のお前の顔見たら、泣いてたのかと勘違いする」
さっきまでは、とんでもなく不機嫌だったくせに。
クライアントである辰野さんを前に、あんなにあからさまに嫌な顔をしていたのに、今のこの人とは別人かと思ってしまう。
「……そしたら、不破さんに泣かされたんですって言います」
「へぇ……随分余裕じゃん。お前はてっきり、俺に嫌われたとか勝手に思い詰めて、落ち込んでるかと思ってたよ」
不破さんがそう言ったと同時に、軽快な音とともに目的の階へと到着したエレベーター。
私を見て相変わらず楽しそうに笑っている彼を残して、私はエレベーターから自分勝手に降りていく。