イジワル上司に焦らされてます
「全然。だって、今日だって急にここに来たんだもん。それに、お姉ちゃんは結婚式の打ち合わせなんだから、そっちを優先して当たり前」
そんなお姉ちゃんは、3ヶ月後に結婚式を挙げる予定だ。
お相手は、お姉ちゃんが勤める会社の社長さん。
昔から恋には奥手なお姉ちゃんを、社長さんがどうやって捕まえたのか気になるところだけど、お姉ちゃんに聞いてみても「私が好きになったんだよ」と、照れ臭そうに笑うだけ。
私たちの弟の陽(よう)は、既にお姉ちゃんの婚約者と仲良くやっているらしいけど……
大概無愛想なあの弟を手懐けたんだから、お姉ちゃんの婚約者も相当のやり手なのかもしれない。
まぁ、若くして大手企業の社長を任されているくらいだしね。何より、お姉ちゃんがこんなに幸せそうなんだから、良い人には間違いないだろう。
「いつか不破さんに会えるのを、楽しみにしてるね」
「……お姉ちゃんに紹介できるようになる頃には、私ももう少し、料理の勉強しなきゃ」
「ふふっ、蘭なら大丈夫よ。それに、不破さんは蘭の不器用なところも全部含めて、好きでいてくれるんだと思うよ」
幸せそうに笑いながらそんなことを言ったお姉ちゃんの言葉がくすぐったくて、私は誤魔化すようにマグカップに口をつけた。
気が付けば部屋の時計の針は12時を指していて、穏やかなこの時間こそ私にとっては一番の気分転換だったなぁ、なんて。
そんなことを心の中で思いながら、私はシフォンケーキを掬って、もう一口、頬張った。