イジワル上司に焦らされてます
 


そこまで言うと席を立ち、頭を下げた。

同じように立ち上がった辰野さんも、立ち上がった私を見て微笑む。



「なんだか、ようやく日下部さんらしくなってきた感じですね。今の日下部さん、すごくイキイキしてます」



相変わらず、聞きなれない時計の針がコツコツと時を刻んでいる。

つい、一週間前だ。

不破さんに叱責されて、クライアントである辰野さんに気を遣わせてしまうくらいに、落ち込んでいた。

たった、一週間。されど確実に、時は動いている。

だって、約4ヶ月後には今手元にある企画書の中のカフェが、現実となって現れるのだから。

自分の携わったものが世に出回り、自分以外の誰かに触れる。



「辰野さんをはじめとした、皆さんのお陰です。私一人では、到底ここには辿り着けませんでした。だから、あと少し……未熟な私に、お力をお貸しください」



頭を下げたことで流れた髪を耳に掛け、ニッコリと微笑んだ。

そうすれば、辰野さんは不意を突かれたように一瞬だけ固まって、「完成が、楽しみですね」と零してから嬉しそうに笑う。



「ではまた、ご連絡させて頂きます」



ワインレッドのパンプス。フロアに響くヒールの音。

しっかりと前を向き、私は一人颯爽とフロアをあとにした。

 
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