イジワル上司に焦らされてます
 


視線を色校に落としたまま、邪魔な前髪を掻き上げて事実を口にすれば、あからさまな舌打ちをされた。

顔を上げれば、羽織っていたジャケットを自身のデスクに投げ置いた不破さんが、落としたばかりであろう自分のPCの電源を入れ始める。



「あ、あの、大丈夫なので! 不破さんは気にせず帰ってください!」

「大丈夫じゃないだろ」

「でも……不破さんだって神戸の案件が追い込み入ってて、ここのところ連日終電だし……」



つい語尾が小さくなったのは、私を横目で見た不破さんの目が訝しげに細められたからだ。

その上、PCの起動を待っていたはずの彼は、すぐ隣のデスクに座る私の前まで気怠げに歩いてくると、膝がぶつかる手前で足を止めた。



「じゃあ、お前は、俺にお前をここに一人で置いて帰れって?」

「それは……」

「普通に考えて無理だろ。お前、俺をなんだと思ってる」



私が見ていた色校に手をつき、見下ろすように影を落とした不破さん。

今のは上司としての言葉なのか、それとも個人的に私を想ってのことなのか……

勘繰ってしまったせいで、声色は一見怒っているようだけれど、そうでないようにも思えてしまう。



「でも、不破さんだって明日も入稿しなきゃいけない案件がいくつかあるし……」

「それ、全部データ確認まで終わってるし」

「え……」

「っていうか、イッパイイッパイになる前に、仕事廻せって始めに言ったよな? それもお前の仕事の内だって」

「…………、」

 
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