イジワル上司に焦らされてます
 


「周りに気を遣う余裕があるなら、少しは自分のことも気遣え」



前言撤回だ。これは上司として、怒ってる。

色校の上に置かれた不破さんの長い指が、トン、トン、と一定のリズムを刻む。

これは、不破さんが少しイライラしている時の癖。または、何かを考え込んでいる時か。

今の状況ではどう考えても、間違いなく前者だろう。



「だって……これ以上、不破さんに負担を掛けたくなかったんです。そうでなくとも、私の仕事がいくつか不破さんに流れていってるのに……」



結局、ここまで来て本音を口にする以外の道が絶たれた。

不破さんだけじゃない。カニさんもサルさんも、それぞれに多くの案件を抱えているし、その中で一番下っ端の私が弱音を吐くわけにはいかないと思っていた。

なんとか、仕事は廻ってる。支障も出ずに動いている。

だから、大丈夫。

あと1ヶ月。今が一番の踏ん張り時で、ここで頑張れば─── 少しでも、不破さんに近付けるような気がしたの。

だから、どれだけ仕事に忙殺されても前を向けた。



「蘭のことで、負担に思うことなんてねぇよ」

「え……」

「寧ろ、お前に頼られない方が俺は堪える」

「…………っ、」

「それって、お前のことが大切なら尚更だろ。なぁ、そういうの、いい加減わかってくれねぇ?」

 
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