イジワル上司に焦らされてます
ゆっくりと、降りてきた影。
何が起きるのかと身構えるより先に唇と唇が重なった。
デスクに置いていた冷たくなった手が、優しい手に包まれる。
至近距離で目が合って、どちらともなくもう一度唇を重ねた。
……ギシリ、と鈍く唸った椅子の音を合図に、更に深くキスに溺れていく。
「ん………っ、」
カチカチと、時を刻む針の音。
次に気が付いた時には終電の時間は過ぎていて、不破さんを帰す為の材料は無くなっていた。
「不破さん……ごめんなさい……」
「……お前さぁ、謝るのはまぁ許してやるけど、今すぐここで抱きたくなるような表情はするなよ」
「ふ、不破さんこそ……無駄に色気を出すの、やめてください……」
名残を惜しむように離れた唇は、相変わらず憎まれ口ばかりを叩いてしまう。
そんな可愛くない私を責めることもせず、私のデスクの上からいくつかの資料を攫っていった不破さんは、静かに自身のデスクに腰を下ろした。
「男としては、残念な朝までコースだな」
「……深夜のセクハラ、やめてください。通報しますよ」
「お前…… " 鬼に金棒 " 的な状況だぞ、今。それを通報でみすみす棒に降るのはバカだろ」