イジワル上司に焦らされてます
「でも僕は、だからこそ日下部さんを今晩お誘いしてるんです。前に、面白い話があるって言いましたよね? それを、是非お話させていただきたくて」
ザワザワと賑わう店内では、他人の会話を聞き取ることは難しい。
それは私たちにも当てはまり、第三者からすればスタッフ同士が何か打ち合わせでもしているように見えているだろう。
「面白い話って……」
「不破さんの話です。もっと言えば、日下部さんの知らない不破さんの話、ですかね」
驚いて、思わず目を見開いた。
辰野さんしか知らない、不破さんの話……?
確かに、辰野さんと不破さんは、私が一緒に仕事をする以前から何度も仕事をしていた間柄だ。
辰野さんは私と仕事をするよりも、不破さんと仕事をしていた時間の方が格段に長い。
でもそれは、先ほども言ったように、あくまで仕事上の付き合いの話。
普通に考えたら辰野さんよりも、私の方が不破さんと一緒にいる時間は長いし、良く知っているはず。
間違いなくそう思う。けれど、辰野さんの言葉になんとなく胸の奥を掻き乱されてしまうのは───
「だから是非、今晩、美味しいお酒を呑みながらお話ししましょう」
私が、不破さんのことを自分でも思っている以上に好きだから、なのだろう。