イジワル上司に焦らされてます
「……そもそも、俺はお前と勝負なんてしてないし、お前が勝手にコイツにちょっかい出してただけだろ」
「それはそうだけど。でも、もしかしたらって思ってたんだけどな」
「どこでそう思うんだよ。っていうか、少しでも手ぇ出そうとしたら前回の時点で殴ってたよ」
「そんなに怒らなくてもいいだろ。タイガがめちゃくちゃ大切にしてる子がどんなものか、俺も興味あったんだよ」
淡々と交わされる会話を一人、部外者の立ち位置で追い掛けた。
……何? 一体、どういうこと?
思わず縋るように不破さんを見れば、私の視線に気付いた彼は私を見て優しく目を細める。
「あ、あの、これってどういう……」
「……黙ってて悪かった。俺とコイツ─── " 辰野 トモキ " は、ガキの頃からの同級生なんだ」
「え……!?」
「所謂、腐れ縁だな。お互い仕事とプライベートは切り離していこうって決めてるから、普段は蘭が見ての通りの関係だけど」
そこまで言われて私は改めて、今までの二人を思い浮かべた。
確かに、この二人が同い年だということは、カニさんとサルさんから随分前に聞かされて知っていた。
けれどその時、カニさんもサルさんも、二人がそんな親密な間柄だなんて一言も言っていなかった。
今の不破さんの口振りから、カニさんとサルさんもこのことは知らないのかもしれない。
それくらい、辰野さんと不破さんは仕事上の付き合いしかしていない風だったし、あきらかに他人行儀のやり取りをしていた。
あくまでクライアントと、いちデザイナー。
それ以上でも、それ以下でもないということを、7年隣にいた私も信じて疑わないほど。