イジワル上司に焦らされてます
「でも、途中は俺も結構本気だったよ。落ち込んでた時なんて、普段のクールビューティーさからギャップがあって可愛いなぁと思ったし」
「おい……お前……」
「まぁでも、あの時は正直、罪悪感の方が大きかったから。あんなに落ち込ませるなら、俺から言ってあげれば良かったかなって」
辰野さんが言っていることが理解できなくて、眉根を寄せて彼を見つめてしまった。
そんな私に苦笑いを零した彼が、「不破も、ほんと意地悪だよなぁ」なんて、小言を漏らす。
『あの時』って……私がネームとロゴ案でミスをして、辰野さんを訪ねた時の話だよね?
私が落ち込んでいたことに辰野さんが罪悪感……って、それは一体どういうこと?
「……コイツは、最初から気付いてたんだよ」
「え?」
「蘭が、一番最初に提示したネーム案。関西に、同じ名称のチェーン店があることも、コイツは全部知ってたんだ」
不破さんの言葉に、一瞬頭の中が真っ白になった。
ゆっくりと辰野さんへと向き直れば、やっぱり苦笑いを浮かべた彼が「ごめんね」と首を竦める。
「俺、本社に異動になる前は、関西方面の支社にいたんだ。だから、日下部さんからネーム案を提示された時には、あれが使えないネームだって気付いてたんだけど……。俺も、結構ムキになって日下部さんを落とそうと思ってたから、後々、この失敗を何かに使えるかもと思って」
「そんな……」
「だからもちろん、一番最初の案は上にも通してなかったし、日下部さんが俺の処遇を心配する必要なんて、まるで無くて。……本当に、ごめんね。でも、あの時のタイガは怖かったなぁ。" お前、いい加減にしろ " って胸倉掴まれて、本気で殴られるかと思った」