イジワル上司に焦らされてます
「……なんだか、" 両手に花 " 、でした」
「両手に花?」
「不破さんのお陰で、すごく貴重な経験をさせていただきました」
思わずしみじみとそう言えば、目の前の綺麗な顔が忌々しげに歪められた。
それを曖昧な笑顔で受ければ、再び前を向いた彼が私の手を引いて歩き出す。
不破さんには本当に申し訳ないけれど、私も女だから仕方ない。
イイ男二人に挟まれて、幸せを感じないほど私も枯れてはいないのだ。
「……でも、良かったです」
「……何が」
「不破さんが、来てくれて」
「…………」
「手、繋ぐのも初めてなので、嬉しいです」
強く、繋がれた手。
初めて繋がった手の温かさを感じながら、そう呟けば小さな舌打ちが返された。
行き交う人たちの中には、もしかしたら顔見知りのクライアントもいたかもしれない。
だけど今は……それさえも、気にならない。
「片手に花で、満足してろ」
しばらく歩いた先のビルの物陰に引き摺りこまれ、強引に重ねられた唇。
そっと彼の首に手を廻せば、やっぱり煙草の苦い香りが鼻をかすめて、胸が愛しさで溢れた。