イジワル上司に焦らされてます
 


「……不破さんらしいですね」

「何がだよ」

「あくまで周りとフェアに戦おうとするところがです」



やっぱり、そういうところが好きだなぁ、なんて。

その先は言葉にできなかったけれど、緩く口角を上げた彼には伝わっているだろう。

思わずホッと息を吐けば、なんだか胸の奥が軽くなった。



「ところで、今どこに向かってるんですか?」

「どこって、ホテルだろ」

「ホテ……ホテル!?」



だけど、何気なく投げた質問にとんでもない答えが返ってきて、穏やかだった心は窓の外へと呆気無く飛んでいった。

思わず手を伸ばし掛けたけれど、その平穏はもう遥か後方、闇の中。



「お前なぁ……だから、メール入れたって言ったろ」

「メール……見てません」

「じゃあ、お前が悪い」

「あ、あの……今から行き先変更なんて、できませんか!?」

「予約入れてあるから無理だろ」

「よ、予約って……それ、いつから準備してたんですか……?」



恐る恐る尋ねれば、やっぱり不破さんが意地悪に口角を上げるから、心臓が今にも口から飛び出しそうだ。



「さぁ、いつからだろうな?」



土曜日の夜。意地悪な上司と二人きり。

本当に─── 何から何まで、今日は驚くことが多すぎる。

 
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