イジワル上司に焦らされてます
コンセプトが決まれば、次はカフェの名前とカフェの象徴ともなるロゴデザイン。
いくつか案を出してみて、今日はそれを見てもらうための時間を辰野さんから貰った。
私がデザインしたロゴの並んだプリントを手に持ち、一つ一つを丁寧に確認していく辰野さんの表情は穏やかで、手応えは上々に違いない。
「どれも、いいですね。コンセプト含め、こちらの意向も汲みつつ上手く活かしてくださっているし、さすがだと思います」
「ありがとうございます。もちろん、ここから更にブラッシュアップさせて頂きますので、ご要望があればなんなりと仰ってください」
言いながら微笑めば、辰野さんもまた柔らかな笑みを浮かべた。
その笑みを正面から受け止めながら、再び不破さんの言葉を思い出し、結局あの人の言う通りになったなぁ、なんてことを考えた。
というか今更だけど、不破さんって、そういう駆け引きみたいなこと、得意だよね……
相手を見て考えるのが上手い、というか。
あの話の翌日、「自分に自信がありそうな人を相手にする時は、最初から相手の意見を無下にするのはNGなんだよ」……なんて言っていたけど。
つまり不破さんは辰野さんを、" 自分に自信がありそうな人 " だと思ってるってことで、どの口がそれを言うかと私は思う……
「日下部さん?どうしました?」
「あ……いえ、すみません! えぇと……企画書にも記載しましたが、カフェの名称のプラス、というのはその名の通り、お客様がこのカフェに来ることで、心にも身体にもプラスになるメニューが揃えてあることを表していて……」
私が設定した、" ちょっと一息つきながら、心と身体の癒やされるひとときを提供するカフェ " ─── というのは、言葉そのままというわけじゃない。
ターゲットであるOL、働く女性、そして子育てに忙しい主婦や、働きながら子育てをしている女性、専業主婦、子供の手が離れた女性に至るまで……
どのポジションに身を置いていても、世の女性は " なんだかんだと忙しい " のだ。
それなら、そんな女性たちに何を、どんな風に提供すれば喜んでもらえるのかを考えた。
「頑張っている女性に、 " ちょっとしたご褒美 " で、心と身体を癒やすひとときを楽しんでもらえる場所であればいいなと思います」
忙しさの中の、小さな幸せ。
私は、その幸せを、気軽に楽しめるカフェを目指したいと思ったんだ。