ラブ アゲイン
「覚えてんだ、はははっ、そう、引っ越す金が無くてさ、あの時のまま」

濱田は笑いながら、菜々の右手を取り、建物の中へ誘う。

確か、3階の角部屋。

「荷物あるし、酔っ払い居るし」

濱田は何時もは使わないであろうエレベーターを使う。


閉鎖的な空間に、菜々は、また、濱田を意識して、普段はあっというまであろう、3階迄辿り着く時間が、数分にも思えた。




「…散らかってるけど、どうぞ？」

リビングに通され、菜々は部屋を見渡す。

「あんまり見るなよ？
ってか、普段はもうちょっと片付いてるんだけど」

対面キッチンに設けられた、小さめのカウンターに飲みかけであろうコーヒーカップ、その傍らに広げられた英字新聞。


ソファの背に無動作に掛けられたスエットの上下。

床には靴下が丸まった形で転がっている。

他にビジネス書も数冊無動作に置かれていた。



「だからぁ！見んなって！」

男の一人暮らしがそんなに珍しいのか？濱田は慌ててスエットの上下を抱える。


着替えるから、そう言って、別の部屋に姿を消した濱田。
きっとあそこは寝室だった。

模様替えしてなければ、だけど。
菜々は無意識にそんな事を思った。


「座っとけって言われても、何処に座るスペースある？片付けていい？」

言い終わる前に体が動く。


「えっ？何？」

着替えた濱田がリビングに戻って来た。

そして、頭をボリボリ掻きながら、悪いなと少しはにかみながら、キッチンへ向かう。


濱田からビニール袋を貰い、部屋に広がるゴミを片っ端から拾い上げていく。

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