エリート上司と偽りの恋
プロローグ
九月十一日
私よりもずっと大きい手が私の手と重なり、互いの指が交互に絡み合う。
こんなふうに手を握ったのは、何年振りだろう。
マンションの下に着くと、彼は立ち止まり私の目を見つめた。
「何度でも言う……好きだよ」
囁くような甘い声を聞いただけで、私の体は熱くなる。
今すぐ本心を伝えたいけれど、本当にそれでいいのか正直迷ってしまう。
一時の幸せなんてもういらない。そう思うと、なかなか一歩が踏み出せない。
そもそもどうして私なんだろう……。
世の中には、彼に似合う女性は他に沢山いるのに。
「俺だけを、見てほしい」
強引に引き寄せられた私の体を、彼の腕が包み込む。
この背中に、手を回していいんだろうか。
信じて、いいのかな……。
けれど彼は……。
◇
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