エリート上司と偽りの恋
いつもなら飲みに行くとだいたい終電を逃してタクシーで帰るけど、今日はまだそんな時間じゃない。

本当はタクシーでのんびり帰りたいけど、電車があるのに無駄なお金は遣えないし……。


時刻は二十一時。帰宅ラッシュの時間はとっくに過ぎてるのに、週末だからか駅の中は混雑していた。

改札を通りホームで電車を待っている間も、どんどん増えていく人の数。

この人数が一斉に電車に乗るんだと思うと、やっぱりタクシーにすればよかったと後悔が過る。


しばらくして電車が到着したけど、私が並んでいるところより明らかにずれた位置にドアがあった。

いつも思うけど、線に沿って並んでも結局ドアから離れてしまうなら、この線の意味ってあるんだろうか。

そんなことを考えながら電車に乗り込むと、両サイドにドアがある丁度真ん中、手すりもつり革もない最悪な位置になってしまった。


もー、ただでさえ足腰弱いのに、掴まるところがないとか……最悪。


動き出した瞬間、案の定体が大きくフラつく。

「っと…」

思わず声が出てしまったそのとき、私の腕を誰かがグイッと持ち上げてくれて、そのお陰で体勢を戻すことが出来た。


「すいません、ありがとうござ……っな!?」

「ござな?なんだそれ」


「だって、だってどうしてここにいるんですか?主任!」

「どうしてって、心配だから。それ以外理由ある?」

主任は、顔色ひとつ変えずにそう言った。



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