エリート上司と偽りの恋
「分かったから、そんなにムキにならないでよ。あなたが主任となにかあるなんて、本気で思ってるわけじゃないんだから。だって、どう見ても釣り合わないでしょ?」


そんなこと……わざわざ井上さんに言われなくても、自分が一番よく分かってる。

告白された日から今日まで特になにもないし、やっぱり夢だったんじゃないかって思ったりもしてる。

だけどそれとは反対に、私の気持ちはどんどん主任に向いてしまっていて、主任と話したり姿を見かけるだけで胸が苦しくなるんだ。

釣り合わないって分かってるのに……。


「もし優しくされたことで好きになっちゃったなら、今のうちに諦めた方がいいわよ。主任みたいなタイプって、頭のいい出来る女が好きだと思うから」


遠回しに、頭が悪くて仕事ができないって言われてるのかな……。

悔しい……。泣きそうだけど、絶対泣いたりしない!

私はグッと唇を噛み締めた。



「そんなに釣り合わないかな?」


……え?

声のする方を振り返ると、主任が腕を組みながら壁に寄り掛かっていた。


「あ、主任、お疲れさまです」

井上さんが焦って挨拶をして、私は主任に向かって軽く会釈をした。

「井上さんのこと探してたんだけど」

「すいません、なんでしょうか?」

「例のチークなんだけど、キャップの絵柄を井上さんの案にあった薔薇にしたらどうかと思って、今推進部の方で話し合ってるから来られる?」

「はい、すぐに」

井上さんは手に持っていた資料をもとに戻し、資料室を後にした。



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