エリート上司と偽りの恋
「お疲れさま」

しばらくして五十歳の浦田(うらた)部長が顔の前でパタパタと扇子を振りながら会場にやってきて、私を含む営業事務のメンバー六人が部長のもとに集まる。

「みんなご苦労様。すぐに全員集まると思うから、もう座ってなさい」

物腰の柔らかい部長がクシャっと顔にシワを寄せて微笑んだ。


座ってていいと言われたがそういうわけにもいかず、東京営業所全員と他営業所の営業部、代理店の方たちなど全員到着した後で私たちもようやく席に着きイベントが開始された。時刻は十七時。


会場に集まった人数は約百名。私たち本社の営業事務は入り口に近い一番奥の席に座っている。


イベントでは食事をしながら代理店に向けて新商品の説明をしたり、売上の表彰なんかもする。

今は丁度表彰の真っ最中。


「えー続きまして、福岡営業所第三営業部の篠宮晴輝(しのみやはるき)君です」

篠宮……なんて営業にいたかな?

「篠宮君は福岡営業所で一年、その後は語学力を生かし株式会社SIRAIニューヨーク支社の方で活躍していましたが、今年福岡に戻ってきました。」

そういことか。

会場に鳴り響く拍手の嵐と共に正面のマイクの前に立ったその人は、流石営業なだけあって流暢(りゅうちょう)に挨拶をしている。


すると隣に座っている桐原さんが私のスーツの袖をクイッと引っ張った。

「ヤバくないですか?」

「え?なにが?」

「あの篠宮って人、めっちゃイケメンなんですけど」

「よく見えないけど」

「私、昔からイケメン見つけるの得意なんです。センサーが働くのかな」

席が遠いせいで私にはハッキリ顔を確認することはできないけど、桐原さんは目をキラキラさせながら身を乗り出して篠宮さんを見つめている。


「ほんとヤバーイ、あんな人が同じ会社にいるなんて。しかもニューヨーク帰り」

桐原さんに付いているらしいイケメンセンサーのことはよく分からないけど、かなり興奮しているその様子から、よっぽどのイケメンなんだと容易に想像できた。
けど、私には関係ない。

お茶をひと口飲んで、フーッとため息をついた。


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