エリート上司と偽りの恋
九月十一日、日曜。

自宅マンションの下にいる私は、入り口のガラスに何度も自分の姿を映し、そのたびに髪の毛を少し整える。


十四時を少し過ぎたとき、通りの奥から白い車が近づいてきた。

もしかして、あれかな……。

車が見えるたびに同じことを思ってドキドキしていたけど、その白い車は今度こそ本当に私の前で止まった。


運転席から出てきた主任を見て、私は思わず息をのんだ。

白いTシャツに紺色の七分袖のシャツ、黒いパンツ姿の主任。いつものスーツ姿も素敵だけど、今日はその何倍もかっこよく見える。


この日の為に買った白のフレアスカート。私も一応精いっぱいのお洒落をしてきたつもりだけど、主任が爽やか過ぎてこの人の隣に並ぶのをためらってしまう。


「ごめんね、遅くなって」

「いえ……」

「どうぞ」

助手席のドアを開けてくれて私が車に乗り込むと、静かにパタンとドアを閉めた。

こんなの、テレビでしか見たことないよ。

ニューヨークじゃこんなふうにするのがあたり前なのかな。


「どこか行きたいところある?」

「特には……」

「じゃーどこでもいい?」

「はい、お任せします」


どこに行くんだろう。こうやって相手に全てを任せて行き先も分からずついていくデートって、なんかドキドキする。


「喉乾いてない?」

「いえ、大丈夫です」

ていうか男の人の車に乗るのも久しぶりで、どうしたらいいんだろう。

手は膝の上でいいのかな……。視線は?ずっと前を見てるのが正解?

静かすぎて、緊張している私の胸の鼓動が主任に聞こえちゃう気がするし……。



< 40 / 82 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop