エリート上司と偽りの恋
ふと運転している主任の顔を見ると、いつの間にか黒いフレームの眼鏡をかけていた。


ヤッバイ……かっこよすぎる……。

「しゅ、主任って眼鏡かけるんですね」

「ああ、実は微妙に目が悪いから、運転のときだけかけてるんだ。鼻がくすぐったくなるから眼鏡はあまり好きじゃないんだけどね」

そう言ってフッと笑った主任。

出発してまだ五分しか経ってないのに……こんな状態で私の心臓は最後までもつのかな。


「め、眼鏡の主任も…素敵です」

「ありがとう。加藤さんがそう言ってくれるなら、毎日かけようかな」


ダメだ、絶対にもたない。こんな言葉を簡単に言ってのけてしまう主任に、私の気持ちは乱されるばかりだ。


車の中が静か過ぎて、緊張感が増してしまう。


「音楽かけていいかな」

「はい」

赤信号で止まったとき、主任がスッと手を伸ばしてCDのボタンを押した。


「あっ……」

イントロが流れた瞬間、驚いて声をあげる。

この曲……。


「てっきり洋楽が好きなのかと思いました」

「このミュージシャンは昔からずっと好きなんだ。向こうにいたときも邦楽ばかり聞いてたよ」


私の好きなフレーズが流れたとき、私と主任は同じタイミングでそれを口ずさんだ。


あぁ……私やっぱり、主任が好きなんだ。


だって、好きなミュージシャンが同じっていうだけで、胸がいっぱいになって嬉しくて、幸せだって……そう思えたから。


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