エリート上司と偽りの恋
完璧な彼の本音~篠宮side ~
『あっ、加藤です、突然電話してしまってすいません。もし明日少しでも時間があれば、会ってもらえませんか……』
「明日じゃなきゃ、ダメかな?」
『あ、えっと、それはどういう……』
「今夜、会いたい」
電話越しの声だけでなんとなく分かってしまったが、彼女は困惑しているようだった。
でも、俺にはどうしても早く会いたい理由があったから。
二十一時五十分、待ち合わせ場所の駅前で、彼女が来るのを待っていた。
予定の時間よりも十分早いが、それでいい。
一緒に仕事をするようになってまだ数ヶ月だけど、彼女の仕事ぶりを見ていればなんとなく分かる。言われたことを効率よくキッチリこなす彼女は、きっと時間にもきっちりしているはず。
恐らく五分前に来るはずだから、待たせたくない俺はそれよりも早く待ち合わせ場所にきた。
チラッと駅腕時計を見ると、もうすぐ五分前。駅の中に視線を移すと、改札を通る彼女の姿が見えた。
「すいません、待たせてしまって」
「いや、全然」
読みが当たったことがうれしかった俺は、思わず少し笑顔になってしまった。そんな俺を彼女は不思議そうに見ている。
「話があるんだ」
そう言うと、うつむきながら「私もです」と呟いた彼女の表情を見て、思わず漏れそうになる言葉をグッと飲み込んだ。
「移動しようか」
駅から五分、一度だけ行ったことがあるバーに入ると、土曜の夜だからかカウンターは埋まっていて、唯一空いていた一番奥にあるふたり掛けのテーブル席に座った。
彼女は何か言いたそうに、手に持ったグラスをジッと見つめている。
「少し長くなるかもしれないけど、俺の話を聞いてもらえるかな」
「……はい」