エリート上司と偽りの恋
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七月、俺は東京で行われる営業部のイベントに出席していた。
ようやく引っ越しを終えたばかりだったが、駅から会場に来るまでの人の多さにすでにうんざり仕掛けていたとき……彼女と出会った。
挨拶をしながらぐるっと会場を見渡すと、ある場所で俺の視線が止まる。
イベントでは百名ほどの人が集まってくるし、挨拶をすることは事前に知っていたから、この日だけは使い捨てのコンタクトをしていた。
遠くに座っている彼女が見えたとき、一瞬頭が真っ白になって自分がなにを喋っていたのか分からなくなるほど色んな思いが頭の中を駆け巡った。
もう二度と会うことはない。だけどもし万が一、三度目があったのなら……運命だと思える。
七年前に俺はそう思っていた。
だけどまさかこんな場所でこんなタイミングで……遠いし、見間違いということはないか?
『あの……加藤さん?』
振り向いた彼女を見て、激しく高鳴る胸の鼓動を確かに感じた。
やっぱり……間違いなんかじゃなかった。
こんなことってあるのか?
もちろん七年間ずっと彼女を思っていたわけじゃないし、時々思い出すことはあったが、それ以上でも以下でもなかった。
俺の中ではとっくに良い〝思い出〟に変わってたんだ。
変わっていた……はずなのに。家に帰って目をつぶると、無意識に思い浮かべてしまう。
人はいつ、どんなときに恋に落ちるかなんて、誰にも分からない。
俺は二度、彼女に恋をした。
一度目は一目惚れなんて信じていなかったはずの七年前、そして二度目は……今日。