エリート上司と偽りの恋
お店を出ると、もちろん外は真っ暗で人の姿もほとんどない。


しばらく歩くと木が生い茂っている丘が見えてきた。丘の下には小さな川が流れていてる。

「夏はここで子どもたちが水遊びをしていたりするらしい。ちょっとキツイかもしれないけど、行ける?」

主任が指差したところには階段があって、所々木が邪魔して見えないけれど、階段は丘の上まで続いているようだった。

「はい、大丈夫です」

本当は運動不足の私にこの階段は正直つらい。でも登りたいって思ったのは、主任が私の手を握ってくれたから。


私の速度に合わせてゆっくり階段を登っていく。


「大丈夫?もうすぐだよ、ほら」

視線を上げると、階段の一番上がいつの間にか見えていた。

はぁはぁと息を切らしている私とは反対に、主任はずっと涼しい顔をしている。

「主任、すごいですね」

「時々運動のために夜ここを走って登ったりしてるんだ。あと少しだよ」


残り五段を登りきった私は、膝に手を当て前屈みになって息を調えた。


「無理させちゃってごめんね、でもどうしても見せたくて」

主任の言葉に体を起こした私は、自分の目に映ったものを見て思わず息を飲んだ。


「す……すごい……」


長い階段を登りきった丘の上からは、まるで宝石を散りばめたようなキラキラと光る綺麗な夜景が広がっていた。


「東京のこんな場所で、こんなにも綺麗な夜景が見れるなんて信じられないよな」

そう言って、繋いでいる手にギュッと力を込めた主任。


「なんか、言葉が出ません……」


この夜景を作り出しているのは、たくさんの家やビルやマンションの光だけど、私には本当にそれが宝石のように見えた。

きっとそれは、隣に主任がいてくれるからなんだ。

こんなにも綺麗な光景を好きな人と一緒に見れているだけで私は幸せで、泣いてしまいそうになる。


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