エリート上司と偽りの恋
「また泣いてるのか?ほんとよく泣くな」

「泣いてません、まだ……」

「泣いたっていいよ。麻衣の泣き顔も、俺は好きだから」


私の名前を呼び、頬に主任の右手がそっと触れた瞬間、我慢していた涙が溢れた。

涙は止まらないけど、私には言わなきゃいけないことがある。


「たとえ主任の好きだった人が結衣だとしても、私は自分の気持ちを伝えようって決めて、今日ここに来たんです」

主任が誰を好きでも、私への告白が偽りだったとしても、私がやらなきゃいけないことは落ち込むことでも悩むことでもなかった。

この思いを、伝えることなんだ。


「私は、篠宮晴輝さんのことが……大好きです」


あんなに近づきたくないって思ってたのに、いつの間にか私の心には篠宮さんしかいなくて、側にいるだけで嬉しくてドキドキして……温かいその手から、離れたくないと願ってしまう。



「七年前、俺はたった数日だけの恋をした。だけどその短い恋が、こんなにも大きくて大切なものになるなんて正直思ってなかった」


頬に添えられた指先で私の涙を拭う主任の、こんなにも綺麗な顔を間近で見てしまったら、私の呼吸は止まってしまいそうになる。

だけど私は目を逸らさず、真っ直ぐ主任を見つめた。


「仕事を一緒にしているうちに、細かいことにも目がいく仕事ぶりや自分の仕事に責任を持って取り組んでいる姿勢に惹かれて、そしてなにより、時々見せる君の笑顔が俺は大好きなんだ。
奇跡ってあるのか分からないけど、また君に会えた奇跡よりも……二度も君を好きになれたことが、俺にとってなによりの宝物だ」


そう言って微笑んだ主任が、優しく私の体を包み込んだ。



< 75 / 82 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop