エリート上司と偽りの恋

「さて、オッケーかな」

今回も、準備に抜かりはない。


しばらくすると営業部や代理店の人たちが集まってきて、イベントが開始された。

「もうさすがにイケメンが異動してくるとかのサプライズはないですよねー」

桐原さんが、ため息混じりに呟いた。

サプライズって……。まぁでも、結果的に私にとってあの日の異動はサプライズだったのかも。


そんなことを思いながら正面を見つめていると、表彰が始まった。

今年も晴輝が営業成績一位で表彰されることは知っていたけど。もうひとり……。


「えーでは続きまして、東京営業所第一営業部の新海陸斗君」


新海君は、今年度営業成績二位という快挙を成し遂げた。


『お前のことに関しては負けたけど、仕事では絶対主任を抜いてやるから、そんとき後悔しても遅いからな』


笑顔でそう言ってくれた新海君は、来年度からニューヨーク支店への赴任が決まっている。

私の同期で大切な友人。

日本に帰って来たときには、盛大にパーティーを開いてあげるんだ。



その後約二時間に及ぶイベントは終了し、いつも通り片付けを終えて会場を出ると、帰ったと思っていた晴輝が外に立っていた。


「どうしたんですか?」

「一回会社に戻ろうと思ったんだけど、急ぎの用もないし今日は上がることにしたんだ」


わざわざ発表することでもないから営業事務のメンバーには話してなかったけど、どうやらとっくに気づかれてたみたいで……。

「お疲れさまー」

ふたりの様子を見ていた鈴木さんたちは、ニヤニヤしながら私の背中を次々にポンと叩いて帰っていった。


「主任に加藤、お疲れさま」

そう言って足早に帰ったのは亜子さん。

いつも私に的確なアドバイスをくれる人生の先輩。
あの日の亜子さんの言葉も、なに一つ間違ってなかったです。



「帰ろうか」

「はい」

全員が会場を出た後、私たちは一緒に歩き出した。



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