演劇の王子



新入生代表の挨拶を無事終え、入学式は滞りなく閉式した。



あの頃、女子高の入学が決まっていた私は急遽進路変更をし、名慶学園へ入学した。


もちろん、あのホールで見た演技が忘れられず、家族の反対を押し切って受験をした。

私の成績ではとても名慶になんか入れなかったが、必死で勉強をして願書を締切ギリギリに出したのだ。



「演劇部………演劇部………」


ホールを出て、第一校舎へ入り、廊下を歩き回る。

手元に地図がなきゃ一生出られなさそうなくらい広い。



「演劇部ならこっちだよ」


あまりの広さに途方に暮れていると、後ろから声をかけられた。



振り向いて思わず身構える。



「……」


「入部希望?あっ、もしかして君新入生代表の―――」


パーマが緩くかかった栗色の髪に、耳にはピアス、化粧もしてる―――!?


男……だよね?



「す、すみません、大丈夫です。失礼します」


「え、ちょっと」


立ち去ろうとして、やんわりと右腕を掴まれる。



こういう場合どう逃げればいいのか分からず固まるしかない。



「なにやってんだ朱人」


すぐ傍の教室から人影が現れる。



「なにって、この子入部希望だから連れていこうと思って」


「その割りには怯えているようだが」


顔をのぞき込まれ、後ずさる。


眼鏡の奥の瞳は驚くほど冷たい。



だけど………



目線が低いせいか、よくわからない気持ちになる。



「虎一は身長低いんだよ。あんまり触れないようにね」


「お前………」


虎一という男の子がギロりと睨む。



「やば、怒らせちゃった」


栗色の髪の青年は悪びれる様子もなく私の右腕を掴んだままだ。



「入部希望か……フン」


鼻で笑い、私を上から下まで品定めするように見る。




「…………」



やがて長い指で私の顎を掴むと、更に距離を詰め、身長差のせいか見上げられる形になる。




「デカイな、何センチだ」



「ひゃ、168です………」



「本当に女か」



「失礼な、170ある綺麗なモデルさんだっていますから」


「お前、モデルなのか」



「いや、ちがうけど………」


というか、近いよ……


至近距離で見つめられ、体中が沸騰しそうになる。


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