氷上のプリンセスは
低めの木で囲まれ、周りからは見えずらくなっている少し小高くなった丘の上の木の下に腰を下ろした。
屋上に行ったら先約がいたからだ。
ゴロン、とそのまま横になって、木と木の隙間からみえる空を見つめる。
目を閉じて思い出すのは幼い頃の記憶。
授業をさぼって寝っ転がっているときはいつもそう。
思い出したくもないのに勝手に色んなことが思い浮かんでくる。
「全部……全部消えちゃえばいいのに……」
不眠症気味な彼女は珍しく長い時間眠りにつき、4時間目終了のチャイムの音で目を覚ました。
午後の授業は日本史と国語。
午前中丸々サボってちゃったしさすがにまずいけど暇なんだよな…
仕方なく教室へ戻ると、窓際の1番後ろの席に人だかりができていた。
「へぇ〜じゃあアルくんは日本初めてなんだ?」
「yes 」
「何か困ることないの〜?」
「Mmm…日本語大体は話せるし、そんなに無いかな。あ!漢字は難しいの読めないからたまに困るけどね。」
「そっかぁ〜じゃあ漢字読めなかったら言ってね!!教えてあげるから!」
人だかりの中心にいるのは男子生徒。
その周りにいるのは殆ど女子で、質問を次々と甘ったるい声でしている。
「ちぇっ。つまんねーの。どーせ転校してくるなら女子が良かったのによ〜なんで男でしかもイケメンなんだよ」
色めきたつ女子とは対象的に、男子からは面白くなさげな不満の声が上がっていた。
「けどなかなかねーじゃん。今話題の天才スケーターとクラスメイトになれるなんて!!」
『今話題の天才スケーター』という言葉に思わずユリは固まった。
というのも、最近テレビで取り上げられるスケーターというのが1人しかいないこと。そして、先程女子から「アルくん」と呼ばれていたこと。
『天才スケーター』、『アルくん』
この2つの言葉を聞いて、数年前まで彼女のすぐ側にいたとある存在を思い出してしまったからだ。
なんて思っていたら、いきなり女子から悲鳴が上がった。
何事だと思って顔を上げると、なんと私のすぐそば、それも少し動けばキス出来そうなくらいのところに話題の転校生の顔があったからだ。
「っっ!?」
ビックリして身を引こうとすると腕をつかまれた。そして空いてる方の腕は私の腰に回され、彼の方に引き寄せられる。
今話題の天才スケーターで、女史からは「アルくん」と呼ばれるような女子が色めきたって男子が嫉妬するようなイケメン………
あぁ……心当たりが多すぎるって………
「………At last I found it!(………やっとみつけた!)」
彼はそう叫ぶと今度は私を抱きしめた。
女子はまたもや悲鳴をあげ、男子は口をあんぐりとあけている。
信じたくはないけれど、どうやら私の心当たりは的中したようだ。
…悲しいことに、ね。