恋した彼は白金狼《プラチナウルフ》
「平気か?」

「大丈夫」

額から流れ落ちる冷や汗を拭いながら辺りを見回して、私は眉を寄せた。

だって、さっきの竹林と何も変わりがなかったんだもの。

正午を過ぎ、夕方にさしかかる太陽の陽射しも風も、すべて同じだった。

ただ違う点と言えば、沢山の人が急に目の前に現れたということと、私達が祠からかなり離れた場所に移動していた点だった。

私が訳がわからないといった顔をしていたせいか、翠狼が身を屈めて私の耳に口を寄せた。

「地上と変わり映えしないように見えるが、ここは、地下だ。まあ、実際には地下ではないが、さっきの世界より下にある世界だ。
それから……ここに人間を入れるのは、原則禁止だ。おとなしくしてろよ」

なんか良く分かんないけど……質問する時間はないし、何を訊けばいいかも分からないから、私はとりあえず頷いてから、状況を飲み込もうと人々の動向を見つめた。
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