恋した彼は白金狼《プラチナウルフ》
俺は叫んだ。

「何故だ、凰狼!何故お前は……!!俺はもう少しでお前を殺すところだったんだぞ?!」

無かった、毒が。

瀬里の中に、凰狼の毒など一滴もなかったのだ。

声を荒げた俺に、凰狼が静かに答えた。

「俺は、命を懸けなきゃならなかった。お前が正真正銘、人狼王に相応しい器かを見極めたかったからだ。この先、俺達が付いていくに値する王なのかを、確かめたかった」

凰狼はここまで言うと、清々しい表情で天を仰ぎ眼を閉じてから再び続けた。

「……だが、命を懸けた甲斐があったというものだ……。白狼、許嫁……瀬里に手荒な真似をしてすまなかったな」

凰狼は辛そうに眉を寄せると、低い声で続けた。

「白狼、立てないんだ。悪いが瀬里を俺の傍へ連れてきてくれ」

凰狼に頷き、瀬里を抱き上げて傍へ寝かせると、凰狼は瀬里の腕の傷にフウッと息を吹き掛けた。

「これで傷はすぐに塞がる。しばらくすると目覚めるだろう。それまでゆっくり休ませてやってくれ」

「……ああ」

凰狼は尚も続けた。

「白狼。凰狼派は……今日を以て解散する」

凰狼のその言葉で、凰狼派のメンバーが静かに膝を折り、俺を見つめた後、敬意を表して頭を垂れた。

眼を見開いてその光景を見つめる俺に、凰狼は浅く笑った。

「白狼。満月の儀式で会おう」
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