〜薄暗い日々〜短編 オムニバス
『娘のお友達』
一人娘の早紀が、私立の有名幼稚園に入園する。

お受験に否定的だった夫を説得し、娘と一緒に必死に努力し、見事、合格を勝ち取った有名私立幼稚園。

忍は誇らしい娘の成長を喜ぶと共に何やら一抹の寂しさも感じる。

通い慣れた公園で、この場限りのママ達とこうやってたわいもない話をするのも、あとわずかだ。

「私の娘は、あなたたちの子供とは違うんですからね。」

顔には出さないが、心の中では常にそう思っていた。

ここの地区の人達は、殆どが、地元の幼稚園や保育園に通う。

「そのうち、都会に引越してやる。」

そうなったら、大嫌いなこの町と完全におさらば出来る。

忍の中では、亭主の転勤でこの町に引越して来た事から常に不満がある。

今まで育児と両立させながら、頑張ってきた仕事を引退せねばならなかった。

夫の育ったというこの町。

忍には我慢できないくらいのカルチャーショックがあった。

公園で仲良くなった人が、自分のバックから財布を抜き取ったたり、市民病院では、ベビーカーごと盗まれたり。

その度、近くの交番に届け出るのだが、警察も全くやる気がない。

一人の心ない警官は、
「ここらへんに住む人間は、生活水準が低いからね。」
と、とんでもない事を言い放った。

冗談ではないと、感じた忍は都会の有名私立幼稚園の受験に娘を入れる事を決めたのだった。

同時にかつてのキャリアを活かし、忍は都会に就職活動をしようと考えている。
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